ハートバンドとは

被害者理解を拡げ深め、社会正義の実現を。
     ~ハートバンド結成の意義とこれからの課題~

犯罪被害者団体ネットワーク(ハートバンド)代表 前田 敏章(所属:北海道交通事故被害者の会)

ハートバンドとは

犯罪被害者団体ネットワーク(愛称:ハートバンド)は、北海道から沖縄まで、全国の犯罪被害者団体が集う日本で唯一のネットワークです。
主な活動は年に一度の全国大会開催ですが、正式結成は2005年の大会準備の中でした。被った犯罪の種別も態様も異なる被害者団体が、それぞれの活動を尊重しあいながら、共通の課題での連携を深め、交流や情報交換などを無理なく行う、ゆるやかなネットワークとして生まれました。
シンボルマークは、被害者の心とこれを支援する国民の心、二つのハートがつながり合うという願いを象徴しています。

ハートバンド結成の意義

犯罪被害の態様は様々で、被害者団体も、殺人、交通犯罪、少年犯罪、性犯罪などと多様で、地域による事情も異なります。しかし被害者の抱える問題は共通で、その尊厳と権利のための法律や制度改善の課題も共通することがほとんどです。最近の課題だけを挙げても、刑事司法における被害者参加制度、公訴時効制度見直し、情報開示の問題、そして損害賠償請求制度など多方面です。こうした中で、ハートバンドが、日本で唯一の被害者団体の結集の場となり、全国大会を開催し連携と活動交流を行うことは、これらの共通な被害者問題の課題解決や法制度改善にとって大変貴重です。実際に、これまで、全国大会開催を結節点にして、切実な諸課題を交流・討議・発信することで、制度の改善など貴重な成果も得ています。
また、日本の社会は犯罪や事故の被害者に対する偏見が非常に強い国の一つと言われており、被害者に対して、例えば、「何かしたからやられたのではないか」とか、事故に遭った人は「ちゃんと歩道を歩いていなかったのではないか」など、被害を受ける理由が被害者にあったのではないか、という歪んだ見方をしてしまいます。そうしたことが被害者の二次被害を助長し、被害者の尊厳と権利の実現を妨げていますから、国民の中に被害者理解を拡げ・深めることは大切な課題です。そのため、私たちは、全国から集い、学び交流し、そこで得た勇気と元気を基に、全国各地で被害の実相を語り、現状と課題を外に発信する取り組みを必死に続けています。

ハートバンドの誕生への胎動

ハートバンドの主な活動は全国大会の開催ですが、私たちが第1回全国大会とカウントしているのは、2003年10月3日、「日本大学カザルスホール」を会場に280名が集い開催された「犯罪被害者支援の日制定記念・中央大会」です。全国被害者支援ネットワーク(山上 皓会長)の主催で、当時全国21の被害者団体・自助グループに案内され、うち14団体が共同参画団体として準備段階から参加させていただきました。孤立無援を感じていた犯罪被害者に、ようやく暖かい希望の光が差し込んだ時でした。14団体の活動を紹介するパネルブースも設置され、メディアにも取り上げられました。この全国大会開催が、支援団体との連携強化とともに、犯罪被害者団体どうしが全国的につながる契機となったことは間違いありません。そして、被害者の権利回復が大きな世論となる一助にもなりました。
2004年10月3日の第2回全国大会には、13の被害者団体が参加。大会では、「犯罪被害者の声を聞き、被害者の権利の尊重を求める決議」が採択され、「支援機関に対する財政的支援」「被害回復と生活支援」「二次被害と再被害の防止」という大項目に加え、「犯罪被害者の司法参加の推進と、被害者への情報提供の充実」「犯罪被害者基本法の制定」という焦眉の課題も掲げられました。
そして、この年の12月1日、ついに犯罪被害者等基本法の制定をみます。全国犯罪被害者の会(あすの会)が全国を巡り、各地の被害者組織の協力を得て集めた55万人を超える署名が大きな力になりました。「犯罪被害者等の視点に立った施策を講じ、その権利利益の保護が図られる社会の実現」(前文)「すべて犯罪被害者等は、個人の尊厳にふさわしい処遇を保障される権利を有する」(第3条、基本理念)と、私たちが求め続けてきた被害者の視点と尊厳と権利が明記された、正に歴史的な法の制定でした。

ハートバンドの正式発足

2005年の第3回全国大会は、この基本法の制定と施行(2005年4月1日)を受け、名称を「犯罪被害者等基本法制定記念全国大会」とし、日程も法制定前の日曜日である11月27日に変更しました。また主催は、被害者支援ネットワークと被害者団体との共催となりました。被害者が「支援されるべき可哀相な人」であってはならない、被害者問題の主体は被害者自身であるという議論を経て、被害者の尊厳を求める権利主体としての第一歩を踏み出したのです。大会前日には、基本法制定を記念し、被害者の尊厳を訴えるパレードを銀座で実施しました。
そして、この大会準備の中で、「犯罪被害者団体ネットワーク」という名称と愛称の「ハートバンド」、さらにロゴマークも決められ、大会を企画する実行委員会とこれらを運営する事務局体制も徐々に整えられました。

ハートバンドの発展

2006年11月26日の第4回全国大会は、その日程を2005年12月に閣議決定された「犯罪被害者等基本計画」の中で定められた犯罪被害者週間(11月25日~12月1日)に合わせ、名称も「犯罪被害者週間全国大会2006」としました。
そして、2007年11月25日の第5回大会からは、ハートバンド単独主催となり、以降、基本法の理念を社会のすみずみにまで広げ実質化するために、権利主体であることを自覚した被害者自身が自立した活動を、と力を合わせています。
2008年11月30日の第6回大会、および翌2009年11月28日の第7回大会では、2008年12月から実施に移された刑事裁判における被害者参加制度など、司法制度改善の意義や課題が議論され、2010年の第8回大会に引き継がれています。
私たちは、ネットワークというゆるやかな連合体という性格から、各年の全国大会実行委員長を持ち回りで引き受けてもらっています。これまでの実行委員長(括弧内は所属団体等、2011年は今秋開催)を以下に記します。
★2005年 高橋シズヱ(地下鉄サリン事件被害者の会)、★2006年 菅原直志(被害者支援を創る会)、★2007年 前田敏章(北海道交通事故被害者の会)、★2008年 高石 弘(飲酒ひき逃げ事犯に厳罰を求める遺族・関係者全国連絡協議会)、★2009年 青木和代(生命のメッセージ展・少年犯罪被害者遺族)、★2010年 二宮 通(南の風)★2011年 花房孝典(全国交通事故遺族の会)

大会のサブスローガン「いのち・きぼう・未来」について

2005年以来、大会のサブスローガンとして掲げられている「いのち・きぼう・未来」は、全国の被害者団体が心を一つに、広く国民の支援の心とつながろうと、大会準備の実行委員会を重ねる中で決定しました。このスローガンには、被害者の視点から、生命への共感を拡げ、そして社会全体が犯罪被害のない希望ある未来へ向かって欲しい、という切なる願いが込められています。

いっそうのご理解、ご支援をお願いします

ハートバンド誕生からの9年あまりを振り返るとき、基本法制定と政府の基本計画策定、制度面でも刑事司法における被害者参加制度、公訴時効制度の見直しなど、被害者の尊厳と権利回復にとって正にドラスチックな前進がみられた時代であったと思います。被害者自身の血の滲むようなとりくみと、これに呼応した関係各方面の努力によって得られた前進ですが、私たちはこの確かな前進を希望とし、さらに前へ進まなければなりません。基本法の理念が制度面と国民意識など、社会のすみずみに浸透して、真に命の尊厳が守られる希望ある社会を展望するには、まだまだ課題が山積しているからです。
そして、当事者として担う各被害者団体とそれをつなぐハートバンドの活動基盤は、人的にも財政的にも極めて脆弱な面があります。こうした実情を汲み取り、「尊厳にふさわしい処遇を権利として保障すること」と基本計画の方針に掲げられた課題が着実に進められるために、関係機関はじめ、民間の支援団体、および広く国民の皆さまからのさらなるご理解とご支援を賜りたく願っています。

参考・・・「犯罪被害者週間全国大会2010」のようす

2010年11月27日、東京都中央区の晴海グランドホテルに、北は北海道から南は九州、全国各地の犯罪被害者・家族が続々到着しました。午後から行われる交流会と翌28日の「犯罪被害者週間全国大会」に参加するためです。会場ロビーでは、再会と出会いを喜ぶ笑顔が今年も溢れていました。主催は全国19の被害者団体が集う「犯罪被害者団体ネットワーク」(愛称「ハートバンド」)の仲間です。一日目は、14団体、90名の被害者・遺族が集い、全体交流会と分科会。分科会はここ数年定着した「弁護士に聞く」「語りの部屋」「ワークショップ(歌声も)」「リラックスルーム」に分かれて語り、学び合います。全体での交流は、毎年夜が更けるまで続くのが恒例です。心に深い傷を負った当事者どうしが、心底から信頼し合うためには、時間をかけた交流の積み重ねが必要なのです。
翌28日、広く市民に公開された全国大会には、内閣府、警察庁、国交省からの来賓と市民の方が加わり、総勢160人が会場を埋めました。第一部で、全国犯罪被害者の会(あすの会)の岡村勲代表幹事(当時)が、「犯罪被害者の権利を求めて」と題して、基本法や被害者参加制度など、被害者のための司法制度を創る崇高な闘いについて講演されました。聴講したある被害者は「深い感銘を受けました。被害者自身が声をあげ主張していく事こそ社会を変える力になるとの考えをあらたにしました」と感想を述べるなど、感動的で貴重な講演でした。第2部「被害者からの声」は、佐賀の殺人事件被害者の会・北村明子さんと、飲酒ひき逃げ事件の被害遺族・佐藤悦子さん。そしてフィナーレは、恒例の「つながるプログラム」。全国の被害者と支援の方々が固く手をつなぎ、被害者の権利回復と社会正義を実現しようと、今回は1羽1羽横につなげられた折り鶴で会場を飾り、「翼をください」の歌声が流れる中、希望の象徴である子どもたちの手によって、中央の大きなシンボルのハートバンドに、願いと折り鶴を結び、再会を約して終えました。